私たちの暮らしと地下水② 地下水の水質保全

事例紹介

『私たちの暮らしと地下水』3部シリーズの①では、私たちの暮らしに深くかかわっている地下水利用の現状についてお伝えしました。私たちの暮らしと地下水①
②では地下水の水質保全についてお話をしていきたいと思います。

土壌と地下水に関する諸問題と対応の経緯
私たちは、日常の生活の中で井戸などを利用して、“地面の下を流れる水”を利用してきました。
実際には、江戸時代までは浅井戸による川の伏流水の利用でしたが、明治維新以降、本格的に地中深くを流れる地下水を利用するようになりました。それに伴い、地下水や土壌に関して、いくつかの問題が発生しました。これらの問題は、川や湖沼などと異なり、水量の変化や有害物質による汚染も発覚しづらく、問題の発覚後も全体像が見えにくいため、抜本的な解決が難しいことが特徴として挙げられます。
以下に国内における土壌・地下水関連の諸問題の発生と行政対応の概要を示します。

表.国内における地下水・土壌関連の諸問題の発生と対応の推移


公害問題と言えば、必ず教科書に登場する「足尾銅山鉱毒事件」。これは鉱山を掘削中に銅などの重金属が渡良瀬川に流れ込み、下流域の農地汚染を引き起こしたもので、私たちが最初に対峙した大きな公害といえるでしょう。さらに、神通川流域で発生したイタイイタイ病は、農地の汚染に加えて、農民の健康にも被害をもたらしました。
また、国内のいくつかの平野部では、地下水の利用が急速に拡大し、地盤沈下や臨海部では塩水化という問題も生じました。1980年代以降では、米国での土壌・地下水汚染の発覚を契機に、日本国内でも環境庁による全国の地下水汚染調査が実施されました。その結果、有機塩素化合物(PCB)や重金属による土壌・地下水汚染が都市域を中心に発生していることが明らかとなりました。


硝酸態窒素による地下水汚染と保全の今後
環境庁による地下水汚染の一斉調査では、硝酸態窒素による地下水の汚染が全国的に広がっている現状も明らかとなりました。この要因には、畜産系排水の混入などがありますが、もっとも影響が大きいのは農地からの肥料成分の地下への浸透によるものです。そのため、各地の行政ではその汚染状況を常時モニタリングにより監視するとともに、対策ガイドラインに基づいた協議会等による対策・計画の立案、普及啓発や各種情報の公開など、様々な取組みが進められています。

2014年(平成26年)に施行された水循環基本法の中では、水循環の一部を構成する地下水においても、地下水が水循環系に与える影響を監視しながら、地下水域を単位として、総合的かつ一体的な保全を行なうことが求められています。本年の同法の改正では、国及び地方公共団体において、地下水マネジメントの取組を一層推進していくべきことが明確に位置付けられました。
この他、関連するところでは、私たちの身の回りの水環境の中でも、地域の生活に溶け込んでいる清澄な水や水環境の中で地域住民等による主体的かつ持続的な水環境保全が行われているとして選定された「平成の名水百選」においても全国各地の湧水や地下水などが選ばれています。私たちも身の周りの水環境を大切にする意識を持って、後世につなげられるようにしていきたいものです。

③へ続く。


参考資料
社団法人日本水環境学会 編:日本の水環境行政 改訂版(平成21年3月)
国土交通省 水管理・国土保全局 水資源部:令和2年版 日本の水資源の現況
環境省 水・大気環境局 水・土壌環境課 地下水・地盤環境室:未来へつなごう 私たちの地下水 気づいていますか?硝酸性窒素等汚染
同上:硝酸性窒素等地域総合対策ガイドライン 概要版(令和3年3月)