アスベストの歴史と簡易検出キットで高まる利便性

事例紹介 製品情報

「奇跡の鉱物」は「死の素材」だった

石綿(アスベスト)は、耐熱性・絶縁性・保温性・耐腐食性に優れ、さらには安価であるということから「奇跡の鉱物」として重宝されていました。

1970~1990年にかけて、年間約30万トンという大量の石綿が輸入され、これらの石綿のうち80%以上は、建築材料に使用されました。このように「奇跡の鉱物」として重宝された石綿ですが、作業者がばく露による健康被害リスクがあることが明らかになり、奇跡の鉱物は、一転して「死の素材」と呼ばれるようになるのです。

労働者の健康被害が報告されたことによって、国内では2006年以降、労働安全衛生法(石綿障害予防規則。以下、石綿則)において、石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有する全ての物の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止されています。 日本で石綿が全面禁止になる以前に使用されていた建物の老朽化が進む中、現在、石綿含有建材を使用していた可能性のある鉄骨造・鉄筋コンクリート造の民間建築物の年間解体件数は6~7万棟、これが2028年頃にはピークの10万棟を迎えると推定されています。さらに、解体や改修工事の事前調査の件数は、少なくとも2015年度時点では年間約73~188万件とも言われています。※1

石綿は、髪の毛の直径(40~100μm)よりもさらに細い繊維状を呈し、肉眼では識別できません。そのため飛散しやすく、肺に吸い込んでしまうことにより10年〜数十年後に、中皮腫や肺がん等を発症するリスクがあると報告されています。

さらに、石綿を取扱っていた労働者だけに限らず、その家族や石綿を取扱う工場の周辺住民、さらには、石綿と関連のないような人々も建築物の解体現場からの飛散によって、日常生活のなかで長い間、知らないうちに吸い込んでしまい発症してしまうといった事例も報告されています。


石綿含有の建築物や工作物の解体や改修工事の際、石綿の管理や取扱いが不十分であると、石綿が飛散し、環境中への放出や作業者へのばく露リスクが高まることが懸念されています。そのため解体作業時における労働者のばく露、周辺環境への飛散防止対策として、大気汚染防止法(以下、大防法)や石綿則等の石綿関係法令で適切な管理が定められています。そして、2021年4月の改正大防法や石綿則の施行により、解体工事前の石綿含有の現地調査と報告が、ほぼすべての建物の工事で義務化となり、規制がより強化されることになります。

同時に、建築物解体時の石綿含有の事前調査において、設計図書等の情報が共有されない、現場での判別が困難、そしてますます増える解体現場の調査需要に対する建築物石綿含有調査者の不足等による負担の増加も懸念されています。 さらに、山間部の施設・構造物の解体、改修といった地域的な課題や、地震や洪水など自然災害時に懸念される建築物等の倒壊、飛散リスクを最小限に抑える上で、現場で含有の判定を少しでも簡単で迅速に検出できるキットがあると便利なのではないでしょうか。

材料レベルとは?

石綿含有の建材は、石綿飛散漏洩防止対策徹底マニュアル[2.20版]等によって、材料レベルが分類されています(表1)。これは有害性の高いものから順番に材料レベル1、2、3と区分され、レベル1、2は飛散性が高く、厳しい管理が求められています。一方、材料レベル3は、石綿含有建材の90%近くが占めており、建物の内装から外装材に至るまで幅広い種類に使用されています。このレベル3の建材は、破砕や裁断等をしない限りは、石綿の飛散はしにくいと考えられています(法改正によりレベル3も規制強化の対象となります)。

分類有害性建材の種類本製品の判定対象
レベル1発じん性が著しく高い
(飛散性が著しく高い)
石綿含有吹付け材
レベル2発じん性が比較的高い
(飛散性が高い)
石綿含有保温材
石綿含有耐火被覆材
石綿含有断熱材
レベル3発じん性が比較的低い
(飛散性は低い)
その他の石綿含有建材
(成形板等)
例:石綿含有スレートボード
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表1. 材料レベル

広島県の特許技術を用いた簡易検出キットの製品化

2021年1月18日、広島県立総合技術研究所保健環境センターの特許技術(特許 第6781441号)を用いて、アスベスト検出キット(型式:DK-ASB)を発売しました。

本製品は、「有害性の高い材料レベル1、2の建材を対象に、石綿の重量比1%以上の含有を、従来にはない簡易的な方法で、現場で迅速に判定するスクリーニングキット」です。

石綿には、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモサイト、アンソフィライト、アクチノライトと呼ばれる6つの種類があり、総使用量の約90%をクリソタイルが占めます。本製品では、クリソタイル2%以上、アモサイト1%以上、クロシドライト5%以上の含有を、試薬の発色で判定することができます。

※本製品は建材中の重量比1%以上の石綿の簡易検出キットです。広島県の特許技術を用いておりますが、
本製品は検出範囲が異なりますので、製品仕様をご確認の上、ご使用下さい。

特徴
・操作が簡単(前処理不要)
・10分以内に検出可能
・高価な機器・設備や分析の専門知識不要
・コンパクトで持ち運びが楽
・毒物および劇物取締法非該当

注意点としては、本製品での検出範囲は1%以上の石綿の含有判定となり、材料レベル3に該当する建材(その他石綿成形板の建材)においては、成形した建材の構造から発色試薬と接触・反応しにくい、アスベストの含有率が元々低い(共存物質の影響を受ける)等の理由から誤発色や不検出のおそれがあるため、現行仕様では適用できないことです。今後の課題として、さらに広範囲の建材に適用できないか改良の検討をしてまいります。

本製品の主な用途として、建設業や石綿調査・分析機関、行政の取締り、災害現場などでご使用いただくことを想定しています。ただし、本製品の結果は、法律で定める建材中の重量比0.1%以上の石綿含有を検出および保証するものではありません。石綿の含有建材の最終判断は、必ず調査・分析が行なえる石綿分析機関にご依頼してください。※2 測定後のキットの廃棄等については、石綿含有の可能性がありますので、各法律に従って適切な処理をお願いしています。

持続可能な社会を目指す

近年、世界的に注目されるSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)など、持続可能な社会を考える際、私たちが、日常的に安心して健康的に暮らすために大気、水質、土壌など環境に対する取組みは、今後もますます重要な課題となってきます。

今回のコラムで取り上げた石綿は、先に述べたように身近に石綿が使用されていた建物の解体、改修工事が今後10年をピークに増加すると推定されます。法律の規制強化によって石綿飛散防止に向けた現場での適切な管理および負担も増加すると考えられます。アスベストに関わる業務に従事される方々で、分析に関する専門知識がなくても、含有のスクリーニンングキットとしてお試しいただければ幸いです。

補足
最近、ニュースで取り上げられる珪藻土マットについては、本製品は適用できません。石綿ばく露防止の観点から、ご家庭において本製品を使った石綿有無の判定には使用せず、製品の各メーカーの指示に従い、確認、回収等の手続きをお願いいたします。また、事業者におかれましても、関係法令等に従い、石綿管理を行なうようお願いいたします。

関連情報

参考情報
※1 中央環境審議会大気・騒音振動部会 石綿飛散防止小委員会(第1回)資料4(抜粋)
※2 一般社団法人 日本環境測定分析協会 https://www.jemca.or.jp/sys/member_list