【レポート】「水を測る」を、地域で水を守る力に。―インドの水と人に向き合う、共立理化学研究所の取り組み

レポート

自分たちが使う水の状態を、自分たちで確かめられる。それが、水の変化に気づき、地域の水環境をよりよくするきっかけになってほしい。私たちは、簡易水質分析を通じて、そんな水との関わり方を広げていきたいと考えています。

2026年8月、私たちは現地代理店や試薬供給の協業先との商談、展示会の視察などを目的にインドを訪れました。ホテルでは到着早々、パックテストで蛇口の水を測定。商談では、製品を使う方々から寄せられた困りごとや要望を聞きました。水を測ることと、人の話を聞くこと。その両方から、現地で必要とされることを確かめていきました。

日本とインドでは、水を取り巻く環境も、日々の暮らしも異なります。だからこそ、現地の方々と対話しながら、その地域に合った製品やサービスを一緒に考えていくことが大切です。今回は、インドの水事情と、水環境の改善に向けて私たちが取り組んでいきたいことをご紹介します。

1.ホテルの蛇口で、見えない違いを確かめる

インドに到着し、ホテルでさっそく取り出したのはパックテスト。蛇口から出てくる水は、どんな状態なのだろう。
気になったら、その場ですぐに確かめられるのが、このパックテストのよいところです!!

測定したのは、デリーとハイデラバードのホテルの蛇口の水。残留塩素、全硬度、pH、CODの4項目を調べ、比較用に測定した横浜市の水道水と見比べました。

測定項目デリーのホテルハイデラバードのホテル横浜市
残留塩素(mg/L)000.2
全硬度(mg/L)10020050
pH7.57.57.5
COD(mg/L)000

【残留塩素】

デリー
ハイデラバード
横浜市

【全硬度】

デリー
ハイデラバード
横浜市

【pH】

デリー
ハイデラバード
横浜市

【COD】

デリー
ハイデラバード
横浜市

■違いが見えたのは、残留塩素と全硬度

残留塩素は、横浜市の水道水で0.2mg/Lを確認しましたが、二つのホテルでは、パックテストを使用して残留塩素は確認できませんでした。日本の水道では、消毒の効果を保つため、蛇口まで一定の残留塩素を確保する管理が行われています。
(東京都水道局公式サイト:https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/suigen/topic/07)

一方、全硬度は、水に含まれるカルシウムやマグネシウムの量に関係する指標です。高いからといって、直ちに「汚れている」「危険」という意味ではありません。一方で、硬度は石けんの泡立ちや水の味、設備の管理などに関わります。同じように見える水でも、含まれる成分が違えば、使うときに考慮する条件も変わってくるのです。

もちろん、この4項目だけで水の安全性や飲用適性を判断できるわけではありません。水源や処理工程、貯水設備の状況に加え、より幅広い水質項目の確認が必要です。今回の測定は、現地の水質の特徴を知るための1つの手がかりです。

■基準があることと、守られていることは別

日本にもインドにも、飲み水の品質を守るための基準があります。日本は水道法に基づく水質基準52項目(2026年4月時点)、インドは飲料水規格「IS 10500:2012」。
インドの規格でも、塩素消毒をした水には、利用者側で遊離残留塩素0.2mg/L以上を求めています。

大切なのは、基準があるだけでなく、実際に届く水がそれを満たしているか、確かめ続けることです。そのためには、各地点での検査と、結果に応じた対応が欠かせません。

【参考|日本とインドの水質基準】
・日本:環境省「水質基準項目と基準値」
https://www.env.go.jp/water/water_supply/kijun/kijunchi.html
・インド:飲料水規格「IS 10500:2012」
https://consumerhelpline.gov.in/bis/IS10500-2012.pdf

「違いがある」とわかったら、その理由を知りたくなる。
数値は、水の特徴だけでなく、次に確かめることも教えてくれます。

2. 水の状態を知る担い手を、地域の中に増やす

では、インドでは水の供給と管理がどのように進められているのでしょう。
その大きな取り組みの一つが、インド政府による「Jal Jeevan Mission(ジャル・ジーバン・ミッション、以下JJM)」です。
2019年に始まったJJMは、農村部の各家庭に、必要な量と所定の水質を満たす飲料水を継続的に届けることを目指しています。
政府発表では、農村世帯の水道接続率は、開始時の約17%から、2026年7月18日には約82%まで拡大しました。整備は大きく進んでいますが、なお接続されていない家庭もあります。
でも、水道につながったことと、安全な水が継続して届くことは、同じではありません。JJMでは、水源、浄水施設、貯水・配水の各段階で検査し、問題があれば改善につなげることを求めています。
2026年に打ち出された「JJM 2.0」では、設備の整備に加え、地域による維持管理や継続的なサービス提供を重視しています。水を届ける設備と、届く水を確かめ続ける仕組み。その両方が必要とされているのです。

JJMで私たちが注目しているのは、地域住民も水質を確認する担い手になるという考え方です。政府は、地域の女性に簡易検査の研修を行うなど、専門機関の検査と住民による水質の見守りを組み合わせる取り組みを進めています。
(JJM公式サイト:jaljeevanmission.gov.in)

住民が使う簡易検査キットの測定項目には、pH、全硬度、残留塩素などが挙げられています。今回ホテルで測った項目のうち、この3つは、地域の水を見守る際にも用いられる指標です。
もちろん、測定するだけで水がきれいになるわけではありません。状態を知り、結果を共有し、気になる変化を専門機関や管理者への相談につなげる。ーー日常の測定と専門的な検査、それぞれの役割を組み合わせて、水質管理を続けていくが大切です。
そこで生かしたいのが、「誰でも、どこでも、簡単に」測れるパックテストです。専門家にしかできなかった確認を、地域の人にも取り組みやすいものにする。その小さな行動を支える道具として、簡易分析が担える役割があると考えています。

■JJMの測定項目
2020年10月1日付の政府通知では、簡易検査キット等による検査対象として、共通8項目と地域に応じた5項目、計13項目が示されています。
・共通の8項目
pH、濁度、塩化物、全アルカリ度、全硬度、細菌汚染(H₂S法)、残留塩素、硝酸塩
・地域に応じた5項目
鉄、ヒ素(専用キット)、フッ化物、亜硝酸塩、リン酸塩

3.「簡単に使える」の条件は、使う場所で変わる

今回訪れた展示会「DELHI WATER EXPO」では、浄水設備やろ過装置、工業用水・廃水処理装置に加え、飲料水をボトルに詰める充填機やラベル貼付装置などが並んでいました。
そして、現地代理店のSWAN社のブースでは、パックテストも紹介していただきました。

水を処理する、供給する、製品として届ける。そうしたさまざまな現場で、どのように水質を確かめているのか。設備を見るだけでなく、その運用の中で簡易分析をどう役立てられるかを考える機会となりました。

代理店との打ち合わせでは、お客様から寄せられた、具体的な要望も聞くことができました。
- 測りやすさ:測定時間や、結果がうまく得られないケースについての相談
- 表示のわかりやすさ:使う人が迷わず操作できるパッケージや表記
- 数量と組み合わせ:少ない本数での包装や、複数の測定項目を組み合わせたセットへの要望。
など
こうした声から見えてきたのは、地域ごとの水質や用途に適した測定条件に加え、「わかりやすい」「必要な濃度が測れる」「必要な量で購入できる」といった使いやすさも大切だということです。現場で聞いた声を、今後の製品やサービスの改善につなげていきます。

■訪問した展示会|DELHI WATER EXPO

会期:2026年8月20~22日
会場:インド・ニューデリー、Pragati Maidan(Hall 12A)
公式サイト:https://www.waterex.biz/
公式サイトのトップページには、パックテストを紹介している商談の様子も掲載されています。
ぜひ探してみてください。
*公式サイトの開催案内は、次回の2027年開催に更新されています。

4. 「製品を届けるだけでなく、測り続けられる環境をつくる

共立理化学研究所は2026年8月、現地企業Pinnacle社との合弁会社「KCL Pinnacle India Pvt. Ltd.」の設立を発表しました。今回の出張では、新たな事業拠点となる事務所も訪れ、現地で継続して製品を届け、使い方を支える準備を進めています。
まずは産業分野で販売・支援体制を整え、製品の供給や使用時のサポートを継続できる体制をつくります。そのうえで、現地の水質やニーズに合った製品づくり、必要な認証の取得にも取り組んでいきます。

私たちのパーパスは、「ブンセキをもっと身近にする」。

ホテルの蛇口で水を測ることも、使う人の声を聞くことも、その実践の一つです。測定できる製品を届けるだけではなく、人々が自ら水の状態を知り、その結果を次の行動につなげられるようにする。インドで得た具体的な声を、現地のパートナーとともに、製品づくりと活動に生かしていきます。


インド渡航のこぼれ話|測るだけでは、インドはわからない

今回の出張では、水の数値以外にも、たくさんの発見がありました。

車窓から見える、いつもと違う日常。

移動中に目にしたのは、道路を埋める車と、街中に響くクラクションの大合唱。タクシーの車内にはガネーシャの置物が飾られ、道路を牛が歩く姿も見られました。車窓を眺める時間にも、現地の暮らしが垣間見えます。

商談の席では、花束とコーラ。

商談先では花束で迎えていただき、席にはインドのコーラ「Thums Up(サムズアップ)」が登場することも。仕事での訪問ですが、こうしたおもてなしに温かさを感じました。
今回出会った方々の中には、連絡するとすぐ電話で話そうとする方も。タクシーのドライバーも気さくに話しかけてくれました。訪問先の社員食堂も明るくにぎやかで、人と話すことが日常のすぐそばにあるように感じられました。

暑さも、行ってみると少し違う。

8月のハイデラバードでは、日本より涼しく感じる日もありました。「インドは暑い」というイメージだけではわからないこともあります。現地で過ごしてみると、思い描いていたインドに、少しずつ新しい表情が加わっていきました。

水のことも、その水を使う人のことも。

現地で確かめ、言葉を交わす時間を、これからも大切にしていきたいと思います。