名水の里、秦野の湧水を追う(前編)

事例紹介

4月某日、神奈川県秦野市の名水を巡ってきました。
名水、と聞けば水質を調べてみたくなる、職業柄の好奇心からパックテスト全硬度を使い、水質検査も実施してきましたのでレポートします。

秦野駅には湧水マップが設置され、市内のいたる所に湧水がみられる

名水の里「秦野」
神奈川県西部に位置する秦野市は、新宿、横浜から約1時間、北には日本百名山で知られる丹沢山塊、南には渋沢丘陵が東西に走る神奈川県唯一の盆地にあります。丹沢山塊から流れ込む水無川、葛葉川、金目川等によって形成された扇状地の地下には天然の水がめが広がり、秦野盆地湧水群として市内には多くの湧水が見られます。また、この豊富な地下水を水源として、明治になり全国で3番目(函館、横浜に次ぐ)となる近代水道が普及しました。
そんな名水の里と呼ばれる秦野では、平成元年、「弘法の清水」で湧く水から有機塩素系化合物による水質汚染が発覚しました。その報道がきっかけとなり、再び安心して飲める地下水を取り戻すために官民一体となって水質保全活動に取り組んだ結果、再び名水の里として、復活することとなりました。

丹沢大山国定公園から見える秦野盆地と、その奥には渋沢丘陵が広がる

名水とは?
名水は、特定の定義があるわけではなく、以下の①~④に当てはまるような水を指し、昭和60年に環境庁(現環境省)が全国各地の「名水」とされる100か所の湧水・河川(用水)・地下水から選定した「名水百選」が一般的に知られています。
 ①きれいな水で、古くから生活形態、水利用等において水質保全のための社会的配慮が払われているもの。
 ②湧水等で、ある程度の水量を有する良質なものであり、地方公共団体等においてその保全に力を入れているもの。
 ③いわゆる「名水」として故事来歴を有するもの。
 ④その他特に自然性が豊かであるが、希少性、特異性等を有するなど優良な水環境として後世に残したいもの。

そのため、名水=おいしい水(飲める水)という訳ではありません。場所によっては、水質検査結果書(大腸菌不検出)を掲示しているところもあれば、飲用は自己責任であることを明示したり、消毒していないので生水の飲用は避け煮沸をしてから飲用するよう注意を促している場所もあります。

水質の簡易測定
昭和59年に厚生省(現厚生労働省)の「おいしい水研究会」によって、おいしい水の要件がまとめられました(表1.おいしい水の要件)

水質項目説明数値
蒸発残留物主にミネラルの含有量を示し、量が多いと苦味、渋みなどが増加し、適度に含まれると、こくのあるまろやかな味がする。30〜200mg/L
硬度ミネラルの中で多いカルシウムとマグネシウムの含有量を示し、硬度の低い水は淡白でコクのない味に、高いと口に残るような感じがあり、好き嫌いがある。一般的にカルシウムがマグネシウムより多い水は味が良く、反対にマグネシウムが多い水は苦みが増す。10〜100mg/L
遊離炭酸水に含まれる炭酸ガスを示す。この成分は、水にさわやかな味を与えるが、多いと刺激が強く飲みにくくなる。3〜30mg/L
過マンガン酸カリウム消費量有機物量を示し、多いと渋味をつけ、多量に含む場合、水の味を損なう。3mg/L以下
臭気強度水につく臭いの強さを数字で表したもの。数字が大きくなるほど不快に感じる。3以下
残留塩素水にカルキ臭を与え、濃度が高いと水の味をまずくする。0.4mg/L以下
水温夏場に水温が高くなると、あまりおいしくないと感じられる。冷やすことにより、おいしく飲めるようになる。20℃以下
表1.おいしい水の要件(参考:厚生省(現・厚生労働省)おいしい水研究会による「おいしい水の要件」(1985年)より)

水の「味」は、人それぞれの感じ方の差はありますが、例えば、水の中の硬度(全硬度、総硬度とも呼ぶ)の量によって変わるとも言われています。一般的に軟水(硬度の少ない水)は舌触りがなめらかで飲んで抵抗感がありません。一方の硬水(硬度が高い水)では舌に残る感じが重く、飲み応えやコクがあります。この硬度とは、水中のカルシウムイオン(Ca2+)とマグネシウムイオン(Mg2+)の量を、これに相当する炭酸カルシウム(CaCO3)の量に換算して表した濃度です。日本では、100mg/L未満を軟水、100~300mg/Lを中硬水、300mg/L以上を超硬水などと分類しています(表2.硬度の分類)

軟水中硬水超硬水
日本の一般的な分類100mg/L未満100~300mg/L300mg/L以上
WHO(世界保健機関)0~60mg/L60~120mg/L
120~180mg/L
180mg/L以上
表2.硬度の分類(参考:WHO(世界保健機関)による飲料水質ガイドラインより)


一般的に日本の水はほとんどが軟水で、海外の水は硬水が多いのが特徴です(これについては後半で説明いたします)。また、日本の水道水の水質基準では、300mg/L以下と定められています。今回は、おいしい水の要件の指標の一つである硬度に絞って、簡易測定してみましたので名水とともに後編でご紹介します(表3.測定結果

パックテスト全硬度を使用する上での注意点
・湧き水は、年間を通して水温が16度と安定していると言われていますが、水温が低い場合は、15~40℃になるよう適温に調整してから測定してください。水温が低い検水の場合、反応が遅くなり、測定値が低くなってしまいます。
・検水量はチューブの半分(およそ1.5mL)ぐらいまで吸い込むようにしてください。その際、専用カップ(型式WAK-CC10)を使うと半分の約1.5mLを吸い込みやすくなり、便利です。
・得られる測定値は概算値となりますので、反応を妨害する物質(共存物質)があると、測定値に影響を与える場合がありますのであくまでも目安として判断ください。
・太陽光の影響で、測定値が高く見えることがありますので、日陰で比色をおこなってください。

後編へ続く

参考情報

表3.パックテスト全硬度による秦野湧水の水質検査結果